2022/09/15-16
奥羽山脈南部
加藤智
ハイキング
2022/09/15(曇)
15:30 安達太良山登山口 - 16:10 薬師岳展望台 - 17:15 安達太良山山頂 18:00 鉄山避難小屋(泊)
久々の仙台出張のついでにぶらりみちのく一人旅を敢行した。
仙台で借りたレンタカーを飛ばして、安達太良山の登山口に着くと平日のためか人は閑散としている。久々のソロハイクで準備に余念がなく少々時間がかかるが、ナンたって俺の血管には狐狼の血が流れているのだ。ましては下山して駐車場で片付けをしている連中をよそ目に颯爽に登っていく自分の姿に否応なく、血がたぎるってものだ。あ、これこれ。この感覚。普段誰かとのおしゃべりに夢中の山行と違い、注意が外から中に向かう。ソロは自分の内面を見つめ直すのにうってつけなのだ。薬師岳の展望台から小一時間で安達太良山山頂に到着。スタートからここまで誰一人ともすれ違わない。登山口から山頂まで百名山を独り占めだ。山頂では眺望に恵まれなかったが、霧の中に佇む溶岩に腰掛け、しばし休息。先を急ぐ旅ではない。ゆっくり行こうや。そう自分に言い聞かせ鉄山の稜線沿いを歩き、今日の宿「鉄山避難小屋」に到着。無論、小屋も独り占めだ。部屋は土間に対してコの字型に小上がりになっていて好きなだけゴロンゴロンできる。なんと贅沢。まだ日は明るいので外に出て立ち込める雲間から顔を覗かせる夕日を眺めたり、植物を愛でたり。夜の帳が降りるのを待つ時間は筆舌に尽くしがたい。
外が暗くなってきたので夕食の準備に取り掛かる。今日のメニューはおにぎりと竹輪とミックスナッツ。それと缶ビールと酎ハイ。狐狼にはこんくらいがちょうどいいのだ。マットに寝転びながら半身を起こして晩酌を楽しむ。微かに入るスマホの電波を拾って明日の天気を確認。台風がきていて週末の山行どうしようか。などと考えながらウトウトと居眠り。うーん。プライスレス。持ち込んだルームランプの灯りが部屋角を照らしまた眠気を誘ってくるのだ。ふと足元を見るとマットの端を小さな甲虫がこっちに向かって歩いてくる。「あれ甲虫君、君も一人かね。奇遇だな。僕も一人だよ。だけどこの小屋にはもう2人だね。今晩だけ居候させてくれ。」「何しにここにきたのかな?ああ、この山に住んでいるのか。住み心地はどうかね。良いに決まっているよね。」などと虫との会話を楽しむ。まだ夜は長いのだ。
こんな夜のお供にと実はKindleに「宇宙のしくみ」なる本をダウンロードしてきた。秋の夜長には読書が一番。日本人は小学生からそのように刷り込まれてきたではないか。ふむふむと宇宙の謎を解き明かす間に、缶ビールはいつしか酎ハイに。この辺りから自分の心に変化が訪れる。ナンとも侘しいのだ。楽しかったはずのソロハイク。が、酎ハイ片手に避難小屋に一人ほろ酔いの45歳。ここは人生の避難場所。今ここで命を断とうともなんら不自然ではないのではないか?直径6km以下の小惑星の上でジャンプをすると、引力の外に飛び出て2度と戻って来られない。いや、知らんし。そんな話はもはやどうだっていい。さっきの虫もデコピンで弾いてしまったから正真正銘の一人になってしまった。あぁ、いつも一緒だった望月の塩対応が、宮脇のどうしようもない親父ギャグが、桂野の支離滅裂な話術や坂本のニヒルな笑みが、岸川の結論の出ないしゃべくりが、瀧濱のウィットにとんだツッコミが、全てが懐かしく愛おしい。うぉー、俺はみんなと登りたい!!一人は侘しい!!ソロなんてもう懲り懲りだ。そんな思いで小屋の外に飛び出ると、星と月の灯りが自分のおしっこと雲海を優しく照らしていた。
2022/09/16(曇)
6:00 鉄山避難小屋 - 7:00 くろがね小屋 - 8:00 安達太良山登山口
翌朝、窓から差し込む陽光に目を覚ます。時計を見ると5時30分。あー、やっちまった。完全に寝坊だ。ブルブルと震えたままの携帯を手に取り、しばし放心状態。しかし山行中にこんなに寝たのは久しぶりかもしれない。なぜだか考えるうちある事に気づく。いつも頭を悩ませる同行者のいびきがないからだ!あーやっぱりソロって最高じゃん。良い眠りは健康の源なのだ。急いで準備を済ませて小屋を後にする。太陽は稜線のだいぶ上まで登っている。今日も長い一日が待っている。狐狼の血がまた騒ぎ出した。
記:加藤智