阿弥陀岳北西稜

日程

2022/01/15-16

山域

南八ヶ岳

メンバー

L桂野、藤田

目的

冬季アルパインクライミング

行程

2022/01/15(晴)
三鷹駅集合6:00 - 赤岳山荘P9:30 - 赤岳鉱泉12:00 - ロープワーク訓練15:30 - 幕営16:00

今シーズンはずっと冬季アルパインに目標を定めて鍛錬に励んできたが、やっとその鍛錬を存分に生かす山行が実現した。藤田との山行という事もあり、いきなりの阿弥陀北西稜。正直、ちょっとステップアップ幅が大きいかとは思ったが、結論から言って大変密度の高い山行となってまたとない成長の機会を得ることが出来たと共に、記憶に残る山行ともなった。山行を共にしてくれた藤田に感謝したい。

初日は、赤岳鉱泉へのアプローチのみ。朝飯のインスタントラーメンを忘れた事に赤岳山荘Pで気づくというハプニングはあったが、カップ麺を赤岳鉱泉で買うことで怪我の功名か、じつはカップ麺のほうが朝はスピーディーであることが判明。そんなこんなでテント生活を楽しく過ごすことが出来た。やはり気の置けない雲稜の仲間との山行は素晴らしい。

2022/01/16(晴)
起床3:30 - 出発4:30 - 北西稜分岐5:30 - 10:20取付き - 11:20 2P終了点 - 11:50 3P終了点 - 12:30 登攀終了 - 13:00阿弥陀岳 - 14:00行者小屋 - 14:30赤岳鉱泉 - 15:45撤収 - 16:50赤岳鉱泉P

翌日、遂に本番の朝が来た。少し緊張しつつも、逸る気持ちを秘めて夜明け前に行動開始。月と星空が大変美しかった。カメラに収めるには一眼レフと三脚と時間が必要なので、記憶にとどめるのみとした事をここに謝らねばならない。事前にGPSファイルをスマートフォンにダウンロードした事で分岐は迷わなかった。しかし、トレースはなく、降雪前のトレースがあったらしきルートと、GPSのルートを見比べつつルートファインディングを強いられる。さらに、ラッセルのせわしい動作にすっかり逸る心が現れた私は藤田に「逸らず冷静に」とたしなめられる事となった。たしなめついでに藤田の指示でトップはラッセルに専念、セカンドが終始GPSを確認するという分業を実施した。これを交代しながらじりじりと北西稜に乗り上げていく。「もしかしたらラッセル敗退もあり得る」との藤田の言に「然り」と思う。欲をかきすぎると気づけば引くこともままならぬ事態に陥るという事もあるのだ。

着実なアルバイトでついに北西稜に乗り上げてGPSから解放されるも、歩きやすい箇所はわずかで、膝下~膝上、時折胸までのラッセルを強いられる。しかし、当初の予測よりも2人の頑張りが上回ったのか、顕著なリッジに到達して、快晴の南八ヶ岳の全景を目にした時間はそう捨てたものではなく、8時ジャスト。一転、「行けそうだから頑張ろう」との藤田の言葉もあり勇躍、続きのラッセルに精を出す。

気づけばそこには我々を見下ろす北西稜の岩稜があり、山を相手にするときに感ずる不安と期待のないまぜになった感情があった。安定した箇所でハーネスとギアを装着、ロープを結んでスタカットで雪稜を行く。最初は藤田先行、途中の立ち木で確保してからは桂野先行、丁度ロープが伸びきったところでボルトを発見。セルフを取って腰がらみで確保、藤田を引き上げてからはお互いロープを肩に担いで取付きへ。1Pは最初にトラバースがあるが、これを省略できるよう、トラバースした後の支点を取付きとした。

ここまでは、「桂野が全ピッチリードのこと」との前提で来ており、登攀準備をしつつ、早速遠い1ピン目を見て覚悟を決める。が、勇躍取付いたもののここはアルパイン本番、あまり大胆なムーブは起こせない。逡巡に逡巡を重ねる桂野の残念なクライミングを見た藤田が早速交代を指示。ランナウトの多い1P~2Pは藤田がリードという事となった。あとからセカンドでぐいぐい登るものの、やたらとランナウトするこのピッチ、確かに中途半端な力では危ない。クライミング力を万全とするか、イボイノシシ等の確保技術を事前に確認するかしておくべきと感じた。

3Pは何という事もないトラバース。これも藤田が行く。フォローで合流すると、核心の4Pを見上げつついったん休憩。テルモスの湯とセブンイレブンのパンが心を落ち着かせてくれる。微妙な感じだが、視界内のピンも近く、核心部は残置ハーケンが連打されているとのことで不安は無くスタート出来そうだ。時間的にも少しは余裕がある。午後は天気が下り坂だがこのピッチを登ってしまえばあとは歩きだ。

写真撮影の後、最終ピッチの登攀を開始した。最初少し取付いて左手に不安を感じたのでアウターグローブを外す。これで1ピン目ゲット。そこから慎重にトラバース。途中に中間支点がないのでこれまた逡巡しつつじりじりやっていると藤田から様々な指導が飛んでくる。どうしても集中したかったのでついに言ってしまった。「少し静かにしていてください」と。落ち着いて発した一言だったので角は立っていないと今も信じている。

トラバースは落ち着いてクリア。そこから核心部の登攀。しかし不肖桂野、A0を全く恐れないがここはさすがにちょっと格好が悪いくらい掴んでしまったと今は反省している。もう少し落ち着いて登ればそこまで掴まなくても登れたのではないだろうか。さらには途中疲れたふくらはぎをテンションで休ませる始末。情けない登りだったが、なんとか今シーズン鍛えたバイルのフッキングを2回使って突破。

稜線に出たら直ぐにボルトにセルフ。笛を吹いて藤田をビレイから解放し、ダウンを着込んで支点構築、ロープを巻き上げてオートロックを構築、笛を吹いた。下からロープが引かれたので確認の意味も込めてこちらからも2度引く。しばらくしたら藤田が登ってくる。息が合ってきた・・・かもしれない。しかし、あれだけ晴れていた空は既にどんよりと曇ってきており、視界も段々と悪化、風の強さは増し、雪も舞い始めた。もたもたできない。合流した藤田に、「トップのビレイに切り替えるから安定した場所まで行ってほしい」と頼むと、50m一杯までいった岩の影まで歩いてくれ、藤田の腰がらみで桂野もそこへ合流。ロープをしまう。

しかし、少し歩くと直ぐにゴーグルを要する状況に。急いで山頂を通過して下山路に入る。早速風は弱まり、段々と山行の終盤に入ったことが実感できた。が、藤田が速い。追いつけない。挙句の果てに腰にぶら下げた使いもしないアブミにアイゼンが引っかかる始末。アブミをしまう間またしても藤田を待たせる。見ると藤田のハーネスからは余計なギアはいつの間にか消えていた。 今回は、雪の状態が良く、下山路が沢筋に取れたので楽ではあったが雪崩危険地帯であることには変わりはない。故に更に藤田速し。追いつけない。結果二人の総合的なスピードが遅いとは思わないが、もし藤田が2人居てパーティを組んでいたらもっと速かったであろう。もっとも、その2人が喧嘩しなければの話だが。

下山中、藤田からは「疲れていないか?」と聞かれ、「まだ疲れてはいない」と強がったものの、結局テント撤収の後歩荷して下山したあとそこそこ疲労していたのは秘中の秘だ

記:桂野

過去の山行記録